十四代沈壽官
十四代沈壽官(1926-2019)は、鹿児島県日置市美山に拠点を置く薩摩焼の名門・沈壽官窯で、約四百年続く沈壽官の世襲名を継ぐ陶芸家である。文禄・慶長の役により薩摩に渡った朝鮮陶工を祖とする家系に生まれ、自らのルーツを公にしながら、薩摩焼の伝統技法、とりわけ白薩摩を中心に制作を行う。薩摩焼の振興と発展に力を尽くし、陶芸活動にとどまらず、日韓の歴史と文化の架け橋として発信を続けた。司馬遼太郎の小説『故郷忘じがたく候』のモデルとしても知られている。

十四代沈壽官の作風は、薩摩焼の伝統を基盤としながら、静謐さと緊張感を併せ持つ点に大きな特徴がある。とくに白薩摩においては、柔らかな白肌と繊細な貫入を生かし、装飾を抑えた簡潔な造形によって器そのものの存在感を際立たせている。過度な華やかさを避け、土味や焼成の揺らぎを尊重する姿勢は、用の美と精神性を重んじる作陶観に支えられている。また、自身の歴史的背景や記憶を内包するような深い余韻を作品に宿し、鑑賞者に静かな対話を促す作風として評価されている。
薩摩焼の成立は16世紀末、文禄・慶長の役の後に薩摩藩が朝鮮半島から招いた陶工たちによって本格化した。沈壽官窯は、薩摩の地に残る数少ない薩摩焼の窯元の一つで、希少な「薩摩の土」と「登り窯」を使用して、薩摩焼を作ることに創業以来こだわり続けている。
薩摩焼は大きく「黒薩摩」と「白薩摩」の二系統に分かれ、沈壽官窯の「白薩摩」は、淡い乳白色の素地に細かな貫入が入り、金彩や色絵による精緻な装飾が施されることもある。とくに幕末から明治期にかけては、輸出工芸として欧米で高く評価され、日本陶磁の名を世界に広めた。